投稿日:2022.10.10
【社史の製作・出版】メリットと目的別4タイプ、費用と制作工程
「社史を出版したい」というご相談をお客様からいただくことがあります。
少し前までは社史の出版は何十年もの歴史を持つ大企業の特権のように思われていましたが、昨今では10周年や20周年を記念して社史の出版に乗り出す中小企業、ベンチャー企業が増えてきています。
社史の出版は会社の歩んできた歴史を出版物として後世に残せるだけではなく、組織の求心力を高め、企業の活性化へとつながる企業戦略ともいえます。こちらの記事では、社史の出版、制作にご興味をお持ちの方に向けて、基礎的な知識を解説させていただきます。
目次
そもそも「社史」とは何なのか?
社史は、会社の歩んできた歴史を細大漏らさず克明に記録し、一冊の本にまとめた出版物です。
創立から現在にいたるまでに起こった事件、成し遂げた成果、変遷のきっかけとなったターニングポイントなど事実の記録はもちろんのこと、創業者はどのような意図でどんな思いでこの会社をつくってきたのか、経営陣は何を見据えて事業の発展に尽くしてきたのか、ぞして、OB・OGも含めた全社員はいかなる努力をもってこの会社での仕事に取り組んできたのか・・・そういった企業の成り立ち、存在意義を全て網羅し、まとめることで社史が出来上がります。
もちろん、中には会社にとって思い出したくもないような「負の歴史」もあるでしょう。しかし、そういった点を避けて「都合のいい一冊」に仕上げてしまっては、社史の意義は半減します。酸いも甘いも問わず会社をつくってきた事象を記録することで、歴史に裏打ちされた説得力を持つ一冊となるのです。
なぜ社史をつくるのか?~社史の目的とメリット~
社史の編纂には当然、社内の人が携わります。工程によっては外部企業に依頼することもありますが、基本的に社内全てを巻き込んで取り組む大プロジェクトです。
そんな社史の編纂にあたるメンバー(社史編纂委員会)にはどのような人物を選べば良いでしょうか?
経営トップと距離の近い人、愛社精神の強い人、古くから会社に在籍している人、社に関する情報を多く取り扱う部署に勤める人・・・まずはこういった人物が思い浮かびます。
しかし、そういった優秀なメンバーを集めた上で、共通する目的意識を全員が持たなければ良い社史はできません。「なぜこの社史をつくるのか?」ということを経営者も含めた全員で話し合い、明文化することで社史完成までの長い道のりを歩んでいく重要な指針となるのです。
「社史とはこうあるべきもの」という決まりがあるわけではないので、ここで設定される目的は企業ごとに大きく違ってきます。ですが、多くの場合、以下にあげる4つのメリットに起因するようです。
1.社員のモチベーションを上げる
苦労して会社を作り上げてきた創業者や経営陣、OB・OGの思いを社史を通して社員に伝えることで組織に求心力が生まれ、「社の一員」としての誇りを持って日々の業務に取り組めるようになります。また、社史を通して普段自分たちが取り組んでいる仕事の価値を再確認することによって、高いモチベーションで日々の仕事に向き合えるようになります。
2.社外の人と企業をつなぐ
社が歩んできた歴史を読み応えのある魅力的な文章でまとめた社史は、「面白い読み物」として新しいファンの獲得に貢献してくれます。また、普段お世話になっている顧客や取引先に社史を通じて感謝の念を伝えることができる点もメリットのひとつです。
3.業務改善のヒントになる
時制の変化に合わせて、その時々の経営者はどのような戦略を立て、どのように成功し、または失敗してきたのか。こういった具体的な事例を体系立てて知ることのできる社史は、今後の業務改善の絶好の参考書となってくれます。
4.会社の記憶を失われない形でとどめる
会社の歴史が進むほど、過去のことはどんどん忘れ去られてしまいます。かつて社の発展に尽くした人たちも、10年、20年と経るごとに社内の記憶から消えていってしまいます。そんな先人たちの生きた証を文字として、写真として残すことは、組織にとって大きな意味があります。また、過去の貴重な情報が整理され、まとめあげた社史は、主に地域研究、産業研究などといった観点から、学術的にも高い価値を有します。
どんな社史をつくるのか?~社史4タイプ~
社史といってもさまざまなタイプが存在します。誰に向けて、どんな目的でつくるのかによって、社史の個性、編集方針は著しく違ったものになります。
一般的に、社史は以下に紹介する6つのタイプに分かれるとされています。
1.会社資料としての社史
会社の歩んできた歴史を克明に記録することを第一の目的とした社史です。当時の写真をはじめとして詳細な資料の掲載が求められるため、完成までに非常に時間がかかります。その性格から、社内に散逸した過去の資料の収集と整理のために行われることもあります。
2.会社案内としての社史
主に顧客や取引先を読者に想定し、会社に対するよいイメージを持ってもらうブランディングの一環としてつくられる社史です。内容は商品紹介や企業の行っている社会貢献に対する言及が多く、営業案内的な内容を含ませることもあります。
3.読ませる社史
会社への認知や取引・購買の有無を問わず、広い範囲での読者目線を想定し、あくまでも「面白く読んでもらう」ことに重点をおいた社史です。わかりやすく読みやすい文体で書かれ、構成もただ事実の羅列に徹するのではなく、山や谷をつくってストーリー性を持たせます。こういったタイプの社史を全国の書店流通とWEBやイベントを合わせてマーケティングに活用することもあります。
4.見せる社史
カラー写真をふんだんに使い、写真集のようなテイストで仕上げる社史です。テキストを少なめに配置し、普段活字に触れない層にとっても親しみやすい社史を目指して作られています。どちらかというと、若い読者を想定した社史に選ばれやすいタイプです。
5.社員参加型の社史
編纂の過程でアンケートやインタビュー、社員の撮影写真などを多く取り入れ、なるべく多くの社員に登場してもらおうというタイプの社史です。愛社精神の向上やモチベーションアップを第一の目的とする場合には、こういった社史づくりが行われます。また、社の周年行事に関心を持ってもらうため、催しごとの一環として社員参加型の社史の編纂が導入されることもあります。
6.記念誌的な社史
社史とは会社の歴史を克明に刻んだものであり、記念誌とは記念日にあわせて刊行されるものを指します。本来意味することも、一般的な社史と記念誌の内容はまったく違うのですが、「〇〇周年」といっためでたい日に企業が出版したものを便宜的に社史として扱うことがあります。社内・社外の人々に向けた特別な感謝の情を表すような内容が一般的です。
社史出版までのプロセス
社史の出版は長い時間をかけて行う長期プロジェクトです。多くの企業は、1~3年ほどの期間を想定して社史の編纂に取り組みます。「欲しい資料が見つからない」などのトラブルにより、想定した年数からさらに伸びることも考えられます。
そんな社史出版までの長い道のりですが、具体的には「準備」「企画」「素材収集」「編集・制作」「出版」の5つの行程を経て一冊の本となっていきます。
1.準備
社史編纂のための準備にあたる期間です。どのようなタイプの社史をつくるのか「基本方針の決定」を軸に、社史編纂委員会の立ち上げ、編纂メンバー間での目的意識の共有、予算の決定、スケジュールの設定、行程ごとの外注の有無の確認、出版社や印刷会社の選定などを行っていきます。
2.企画
準備段階で立てた基本方針に沿って企画、構成を立案し、社史のビジョンをより明確にしていきます。行き詰まった際は、既に出版されている他社の社史を参考にしてみるのもよいでしょう。以下の施設では社史を一般向けに公開しているので、社史編纂の際に是非ご活用ください。
- 東京商工会議所図書館
- 神奈川県立川崎図書館
- 東京証券図書館
- 大阪証券図書館
- 大阪府立中之島図書館
- 松下資料館
3.素材収集・取材
会社の年表に沿って、必要となる写真や記事などを集めていきます。欲しい写真や資料がどうしても見つからない場合などは、当時を知る人物にインタビューを行うことで情報の不足を埋めていきます。その際には、あらかじめ聞きたいことに関する資料を可能な限り集めて精読し、情報の不足する箇所をおぎなうようにして進められれば理想的です。
4.編集・制作
社史をつくるための材料がそろったら、いよいよ誌面づくりとなります。外部の制作会社に依頼する際は担当者やデザイナーと打ち合わせを重ね、理想とする社史の形を共有しながら進めていくことが肝要となります。
5.出版
デザインが決まり、掲載内容の精査・校正を経て、完成したデータを入稿した印刷会社で印刷製本の行程へと進みます。
書店への流通を行う場合は、ISBNが印刷された社史が書店に配送され、発売日に書店に並びます。
社史の印刷費
社史制作の予算の中でも印刷費がどれくらいかかるかは重要なポイントです。
ご参考までに、らくらく自費出版工房で社史を印刷製本した場合の費用をお伝えしたいと思います。
後述するソフトカバーでの仕様で、予算をおさえつつもカジュアルに本格的な仕上がりで、手に取りやすく親しみやすい社史をイメージして見積もってみました。
企業様の出版物を多数制作させていただいているらくらく自費出版工房は、社史の出版、印刷製本も数多くご依頼いただいております。
新しい社史のかたち「身近な社史」への注目
以上、社史についての基礎的な情報について紹介させていただきましたが、最後に出版社の目線から「社史の変化」について述べさせていただきます。
日本では長らく「社史をつくる会社=歴史ある大企業」と考えられてきました。現に今でも、多くの方はそういったイメージをお持ちなのではないかと思います。こういった社史からイメージされるのは、数百ページの厚みがありそうな、ハードカバーで作られたずっしりと堅牢な大きな本ではないでしょうか。現に、少し前までは社史はハードカバーで装丁するのが常識で、例外はほとんどありませんでした。
ところがこういった「社史」のイメージは今後、古くなっていくのではないかと感じることがあります。
なぜなら、冒頭でもふれた通り、昨今では若い会社や中小企業による社史の出版が増えているのです。こういった企業の担当者様とお話する際、よく聞くのが「会社を創業したメンバーがみんな元気でナマの声を聞けるうちに、しっかりとした社史をつくっておきたい」という目的意識です。臨場感のある、本当に面白くて読み応えのある社史をつくれるのは今しかない、と。
こういった意欲が明確な会社の担当者様を中心として、分厚いハードカバーの表紙でなく、ソフトカバーの表紙が選ばれることも増えてきました。
もちろん、ソフトカバーで製本するとハードカバーと比べてコストが安くできるメリットもあります。しかし、コストに関係なくあえてソフトカバーにこだわって社史をつくりたい、という企業様も増えてきており、「ソフトカバーにした方がたくさんの人の手にとってもらえそうだから」というのが、その大きな理由です。
これからの社史は、従来のような堅苦しいイメージだけではなく、手に取りやすく読んで面白い「カジュアルなスタイルの社史」もまた、社史のひとつのあり方として浸透していくのではないでしょうか。
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